アメリカン・コメディ好きの部屋

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NETFLIXで『ジム&アンディ』を観た! マジなのかネタなのか? アンディ・カウフマンとジム・キャリーの、おかしなおかしなおかしな世界【前編】

NETFLIXで11月17日から配信中の『ジム&アンディ』を観た。
『ジム&アンディ』は、ジム・キャリーが主演したマン・オン・ザ・ムーン』撮影現場の密着映像とともに、現在のジム・キャリーにもインタビューをおこなった、NETFLIXオリジナルドキュメンタリー作品である。

一応説明しておくと『マン・オン・ザ・ムーン』とは、35歳で夭折したアンディ・カウフマンと言うアメリカのエンターティナーの伝記映画。『カッコーの巣の上で』『アマデウス』の名匠ミロシュ・フォアマンが監督している。アンディ・カウフマンの芸については『マン・オン・ザ・ムーン』を観てもらうのが一番早い。練習を重ねた熟連の芸ではなく、誰でもできるような素人っぽい事をカメラの前で演じたり、放送事故を演出して視聴者を驚かせる、マジなのかネタなのかが分かりにくい、そんな芸風の持ち主である。

撮影現場に密着したカメラの前で、ジム・キャリーはカットの声がかかってもアンディになりきったまま。監督が演技について相談しようとしても「自分はジムではなくアンディだけど何か?」と言う態度で会話にならない。つまり、アンディ・カウフマンの方法論(=マジかネタかわからない方法で、他人を困惑させる)を使って、撮影現場を混乱に陥れたのである。

 

 『ジム&アンディ』予告

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ホームレスからドル箱スターへ、ジム・キャリーのサバイバル人生

 

『ジム&アンディ』の中でも紹介されているが、まずは、ジム・キャリーの経歴をかいつまんで紹介したい。
ジムは、4人兄弟の末っ子としてカナダに生まれ、子供の時に父親の失業によりホームレス生活を強いられる。極貧生活の中、15歳で地元のコメディクラブに出演を果たし芸を磨いた。その頃は有名人のモノマネを演じていて、得意なネタは、エルビス・プレスリー、ジェームス・スチュワート、クリント・イーストウッドなど。日本で言えば、清水アキラやコロッケのような芸人であり、身体能力の高さと顔面の柔軟性、時折まじるネタの幼稚さから考えて、清水アキラがジムに一番近い芸風だと思う。

19歳でアメリカに移住し、老舗のコメディクラブ「COMEDY STORE」に出演しながら、モノマネ芸には飽き足らず、俳優として映画のオーディションを受け続けクリント・イーストウッド『ダーティ・ハリー5』フランシス・フォード・コッポラペギー・スーの結婚などに出演する。またサタデー・ナイト・ライブのオーディションにも何度か挑戦するが、プロデューサーのローン・マイケルズの好みに合わず、レギュラーメンバーにはなれなかった。

ちなみに『マン・オン・ザ・ムーン』には、映画のラストでトニー・クリフトンが「I will survive」を歌う場所として「COMEDY STORE」が出てきているし、ローン・マイケルズは、アンディ・カウフマンが第一回目の「サタデー・ナイト・ライブ」に出演するシーンで、25年前の自分の役を無理やり若作りして出演している。

 

 

SNLのオーディションで落ちたネタ。核戦争後のエルビス。色々とやばい

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ブレイク前夜! 才能が開花した伝説の番組「In Living Color」 

 

一大転機となったのは、1990年に始まった「In Living Color」というコメディ番組への参加。1989年に『ボクの彼女は地球人』という映画で共演したデイモン・ウェイアンズの誘いで参加、ジム・キャリー独自の才能が開花した。なかでも消防署長ビルというキャラクターは大人気。火事でヤケドを負ったモンスターのような外見だが、消防署長として任務を遂行しようとするビル。しかし、ビル署長は火事を消すのではなく、被害を拡大するタイプ。それによって自分の怪我も増えるというネタで、怖いけど面白い、のちの『マスク』にも通じるキャラクターであった。

「In Living Color」で一気に注目されたジムに、映画主演のオファーが次々と舞い込む。そして、ついに時が来た。1994年の一年間に三本の主演作(『エース・ベンチュラ』『マスク』『ジム・キャリーはMr.ダマー』)が公開され、全て大ヒット。ハリウッドスターの仲間入りをする。はじめてカナダの小さな舞台に立ってから苦節17年、見事、アメリカンドリームを実現したのである。

その後の出演作品は、日本でもほとんどが劇場公開されていて、映画好きなら顔と名前くらいは誰でも知っている存在となった。コメディ映画での幼稚で騒がしいイメージと、真面目な映画でのイノセントな雰囲気のギャップが激しいが、『マスク』のスタンリーのような二面性があるところが彼の個性なのだと思う。

 

「Let Me Show You Somethig」が口癖の消防署長ビル

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ヒゲボーボーで仙人のような風貌のジム・キャリー、一体、何が起こったのか?

 

『ジム&アンディ』に話を戻すと、『マン・オン・ザ・ムーン』の宣伝のために、映画撮影の舞台裏に密着したが、お蔵入りしてしまった映像とともに、当時のジム・キャリーの心境や彼の役者人生を振り返る内容となっていて、ヒゲボーボーですっかり仙人みたいになっている今のジムと、人気絶頂でエネルギーを発散しまくる過去のジム、「静」と「動」が対比になっていて、非常に面白い内容だった。

ちなみに日本公開当時『マン・オン・ザ・ムーン』を劇場で観た私は、つまらない事をわざとする一種のすべり芸人”のようなアンディ・カウフマンが好きになれず、「なんで、ジム・キャリーはこんな芸のない芸人を演じたのかな。ジム・キャリー本人の芸の方が100倍面白いのに」と思ったものである。

マン・オン・ザ・ムーン』撮影時における、ジム・キャリーの“狂気の”のめり込みぶりは『ジム&アンディ』本編を観て感じてもらうとして、日本人にはあまり知られていない、ジムの心の変遷について書きたいと思う。

 

 

 長くなりすぎたので、後編につづく。

 

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