アメリカン・コメディ好きの部屋

アメリカのコメディとコメディアンが好きです。時間がある時に更新します。

NETFLIXで『ジム&アンディ』を観た! マジなのかネタなのか? アンディ・カウフマンとジム・キャリーの、おかしなおかしなおかしな世界【後編】

 前編はこちら。

 

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『ボロボロの君は美しい。元気にならないで』とミッシェル・ゴンドリーに言われたわけ

 

『ジム&アンディ』の中で、ジムは「アンディを演じてる時は最高の気分だったけど、演技を終えて自分の人生に戻ったら途方にくれた。何がやりたかったのか忘れてしまった。」と語っている。スターの人生は浮き沈みが激しく、何かと注目されて精神に不調が出る人も多い。ジムも同じで、1995年の時点ですでに、雑誌の「ニューズウィーク」に、一時は抗鬱剤やセラピーの世話になった事もあると書いてあった。

ジムのパブリックイメージと抗鬱剤の組み合わせは似合わないが、『エターナル・サンシャイン』が公開された2004年頃、ジムはアメリカのCBS「60 minites」と言うドキュメンタリー番組で、うつ病を克服した事を告白していた。『ジム&アンディ』で、ジムが「監督のミッシェル・ゴンドリーから、『ボロボロの君はなんて美しいんだ。これから1年間、撮影に入るまでの間は元気にならないでくれ』と言われたよ」と語ったのは、この事実をふまえての事である。

 

なんだか甘酸っぱい日本版予告編『エターナル・サンシャイン

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エターナル・サンシャイン』は『ジム&アンディ』のプロデュースをしたスパイク・ジョーンズの盟友チャーリー・カウフマンの脚本で、ジムの演じるジョエルはカウフマンがモデル。内気なカウフマンは、脚本を気に入ったジムから出演希望された時は困惑したそうだ。『マン・オン・ザ・ムーン』でもミロシュ・フォアマンに嫌がられたと言うから、ジムのおバカコメディアンのイメージが、いかに強烈だったかがわかる。ちなみに『マン・オン・ザ・ムーン』のアンディ役の候補には、エドワード・ノートンもいて、ノートンの方がルックスがアンディに似ており、演技力もバッチリで、舞台裏での妙な行動もないだろうから、ノートンに決まっていた方が、スタッフ達はきっと楽だったであろう。

その後、ジムはイギリス人のスピリチュアリスト、エックハルト・トールに感化される。YOUTUBE上には、2009年の日付で、ジムがエックハルト・トールのイベントに登壇してる動画がある。エックハルト・トールの本「ニュー・アース」は邦訳されているが、内容は、過去のトラウマ(エックハルト・トールの表現だと“ペイン・ボディ“)から解放され、今をよりよく生きるにはどうしたら良いか、その方法を教えている。ジムの私生活のパートナーだった女優のジェニー・マッカーシーが「ニュー・アース」について語るインタビューもYOUTUBEにアップされているので、おそらく二人が付き合ってた2006年から2010年の間の出来事らしい。

 

 

「ちょっと何言ってるかわかんないんですけど」などとつっこまないように。エックハルト・トールの講演会と思しき映像

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ウツを克服しスピリチュアルに目覚めたジムが、次に選んだのは瞑想だった

 

しかし、スピリチュアルに目覚めて落ち着いたと思った矢先の2011年8月、エマ・ストーンへの公開ラブレター動画をネットに投下して、ジムは全世界をドン引きさせる。さらに同年全米公開の主演映画『空飛ぶペンギン』は、日本で初めて未公開のDVDスルー作品となり、2012年には主演作なし。2013年は『キックアス/ジャスティス・フォーエバー』の宣伝に協力しなかった事で、主演のクロエ・グレース・モレッツからディスられるなど、すっかりハリウッドでの吸引力を失ったかに見えた。

影が薄かったこの時期、ジムはマハリシ経営大学に通っていた。2014年に卒業したそうで、絵画を勉強し瞑想などを学んでいたようだ。このマハリシ大学と言うのが、実は『マン・オン・ザ・ムーン』の映画の中でアンディが教えをこうていたマハリシ・マヘーシュ・ヨギーの学校なのである。映画が始まってから17分くらいに、集団で瞑想をしてるシーンがあるので確認してほしい。

アンディは高校時代にドラッグや酒に依存していたが、マハリシの瞑想に出会って克服したそうで、『マン・オン・ザ・ムーン』でも描かれていたが、仕事の合間にも常に瞑想していた。マハリシの瞑想は正確には超越瞑想と呼ぶのだが、最近はやりのマインドフルネスと同じようなもの。マハリシの存在を世界に広めたのはビートルズで、最近では映画監督のデイヴィッド・リンチ超越瞑想実行者として有名。リンチは「大きな魚をつかまえよう」という題名で超越瞑想の本を書いていたりもする。

 

マハリシ経営大学卒業スピーチの一部。日本語字幕あり

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フルスピーチは25分もある。話が長い。ジムの描いた巨大絵画も登場する。

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再び全米一位に輝いたジムが、目指す航海の先は

 

超越瞑想で元気になったのか、2014年の主演映画『帰ってきたMr.ダマー/バカMAX』は、初登場全米第1位になった。ド貧乏のホームレス芸人から、ハリウッドのてっぺんまでのぼり詰め、ハイテンション芸人のパブリックイメージの裏でうつを克服、スピリチュアル経由で超越瞑想にたどり着いたジム・キャリー山あり谷ありすぎで泣ける。

『ジム&アンディ』では「自分が生み出したキャラが人を楽しませ、自分を人気者にしてくれたが、いずれはその分身から抜け出して、本当の自分を生きなくては」と言い、「今の自分には安心感がある」と語っていた。ちょうど『トゥルーマン・ショー』のトゥルーマンのように、24時間注目されて自分の本当の人生がない。荒れる海で必死に舵を取り続けて、今ようやく出口にたどり着いた。そんな心境でいるのかように見えた。

現在のジムは、アメリカのSHOWTIMEと言うテレビ局でドラマをプロデュースしている。70年代のLAで、実在のコメディアン達について書かれたルポルタージュである「I’m Dying Up Here」という本を元に、脚本が書かれた同名のドラマで、今年シーズン1が放送され、シーズン2の製作も決まっている。また、同じSHOWTIMEで、ミッシェル・ゴンドリー監督ジム主演で「Kidding」というコメディドラマの製作も始まったそうで、実にめでたい。

 

「I'm Dying Up Here」の予告。オスカー女優のメリッサ・レオも出てます

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「忘れられない映画スター」……もちろん、逆の意味で!

 

最後に、老舗映画雑誌『キネマ旬報の「忘れられない映画スター」という成田陽子さんの連載から、94年に初めてジム・キャリーがプロモーション来日した時のマスコミ会見の様子が載っていたので、それを引用させてもらう。『マスク』『エース・ベンチュラ』『Mr.ダマー』公開時の来日で、3本の映画以外のジム・キャリーの情報が全くない頃である。初めての会見でジム・キャリーはこんな風に登場したらしい。

ここから引用********************************

「お待たせしましたー! 今日はテーブルで隠れてますが、ウェストの下はヌードでーす! 顔のマスクを取るより僕自身の実物を見せる方が効果があると思って。いつも知性にあふれた顔のマスクをしてますが、特別に僕の服をはぎ取って別のマスクの僕を紹介しまーす!」
司会者もどきの甲高い声で登場(もちろん下はヌードではない)。

引用終わり*********************************

初登場で下ネタ……。しかもつまらない……。日本のマスコミの人たちドン引きだったろうなぁ。悪い意味で「忘れられない」映画スターである。日本の雑誌の映画評で、おすぎをはじめとしていろんな評論家に毛嫌いされてたのは、これが原因のひとつかも。アンディ・カウフマンよりも激しくスベってるよ!