アメリカン・コメディ好きの部屋

アメリカのコメディとコメディアンが好きです。時間がある時に更新します。

「まだ結婚できない男」があまり面白くない理由

結婚できない男」の続編、「まだ結婚できない男」が現在放送中である。

 

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結婚できない男」とは、阿部寛主演で2006年に放送されたドラマの事。

偏屈な男、桑野が3人の女性との関わりによって、変わっていく姿を

コミカルに描いたラブコメディである。

 

当時の日本の状況は、2005年に「おひとりさま」という言葉が新語・流行語大賞

ノミネートされ、「婚活」という言葉が生まれた2008年より少し前。

まだ、リーマンショック東日本大震災も起こっていない時期である。

 

www.narinari.com

www.sankei.com

 

そういう時代背景を反映して作られた「結婚できない男」は

魅力的なキャスト、ユーモアのある脚本で、完成度が高く

韓国でリメイク版も作られるなど、人気を博した。

 

ドラマ「結婚できない男」には元ネタがあるという噂がある。

それは、ジャック・ニコルソン主演の映画『恋愛小説家』。

私も随分前に一度観たが、偏屈な恋愛小説家とウェイトレスの話で、

犬が出てくるところなど、大筋が似ているのは確かである。

 

それはさておき、前作「結婚できない男」は面白かったのに、

現在放送中の「まだ結婚できない男」は今ひとつ面白くない。

その理由を考えた。

 

 

前作は同じような境遇の二人が出会う「ボーイ・ミーツ・ガール」の物語だった

 

 

桑野信介は、前作では40歳の独身男。仕事もできてルックスも良いのに

性格に難があり、女性に敬遠されてしまうタイプ。

桑野自身は、全く気にせず、おひとりさまの生活を満喫していたが、

ある日、体調不良で病院に行き、そこで出会ったアラフォーの女医と、

なんやかんやもめつつも、お互いの距離を縮めていく。

 

桑野の行く病院は、桑野の義理の兄で親友の中川が副院長の病院である。

という事は女医の早坂夏美にとって、桑野は上司の身内である。

変人であっても邪険にはできない。

何かと口実を作って病院にくる桑野を、しっかりものの夏美先生がたしなめたり、

時に喧嘩したりと、この二人のやりとりが絶妙で、とても面白かった。

 

夏美先生を演じるのは夏川結衣

清潔感のある美貌と、えくぼがあらわれる笑顔がキュートな女優である。

他の共演者には、桑野のお隣さんのみちるを演じる国仲涼子

桑野の仕事をフォローする沢崎を演じる高島礼子がおり、

三人三様の魅力的な女性が出演していた。

 

 

前作と今作、ドラマの第1話を見比べた時に、大きな違いがあった。

前作は、桑野だけでなく夏美先生も、おひとりさま生活をいとなむ

「結婚していない女」である、という描写がある事。

ひとりでパチンコを打ち、ラーメンをすすり、漫画喫茶で一休みする、など

美人女医としては質素で堅実(?)な生活をしている描写があり、

最初の方では、友人の紹介で、お見合いのような事をしている姿も描かれる。

 

つまり、偏屈すぎて結婚できない男と、タイミングを逃して結婚してない女、

「おひとりさま」同士の二人が出会った事で生まれる化学反応が、

メインのドラマだったのだ。

タイトルこそ「男」となっているが、夏美先生側の「女」の立場で

観る事もできる、男女ともに共感できる話になっている。

 

 

雰囲気が変わった大きな理由は「時代が変わったから」と「年をとったから」

 

しかし、前作から13年経った今回のドラマは、

女性メンバーは総入れ替え、桑野だけが年をとり、

いまだ独身のままの53歳になった。

 

前作と同じように3人の女性が登場するが、

吉田羊演じる吉山まどかは、桑野が自分の名前をエゴサーチした時に

出てくるアンチブログを訴えるために、相談した女性弁護士で

夏美先生ポジションのようだ。

稲森いずみが演じる田中有希江は、吉山先生に離婚裁判を依頼した依頼主。

お隣さんのみちるポジションは、女優役の深川麻衣

全員、外見は前回より地味な雰囲気である。

 

 

前作は「おひとりさま」が認知された時期だが、

2019年の現在はさらに未婚率は上がっていて、単身の高齢者が増えている。

「まだ結婚できない男」の冒頭で、50歳を超えても結婚しない男性の割合は

23.4%と書いてあったが、2005年当時は15.4%だったそうだ。

日本は20年以上デフレが続いており、前作と今作の間に、

リーマンショックと震災、消費税が倍になるなど、経済状況は確実に悪くなっている。

婚活する女性が男性に希望する年収も、「婚活時代」が書かれた2008年ごろには、

600万円くらいが妥当だったと記憶しているが、

2019年の現在は400万円くらいが普通で、600万は高望みと言う

ネット記事もよく見かける。

 

 

そんな社会状況の中、53歳独身の桑野はどうなったか。

何も変わらない、と言いたいところだが、何かが違う。

設計事務所が大きくなり、スタッフが増えたが、

仕事を頑張っているストイックな雰囲気がなくなった。

 

そして、以前は女性に興味がなさそうな感じだったが

前回のラストで、夏美先生を受け入れた後だからか、

割と積極的に女性とも関わっている。

初対面の吉山弁護士が独身だと聞いた瞬間、

やけに嬉しそうなリアクションをしていて、

前回にはなかった「おっさんの気色悪さ」も、若干感じられた。

 

また、40歳の頃は「結婚できないのではなく、しないんです」と言っていたが、

53歳でそれを言うのは「負け惜しみ」感が強くなるからか、

全体的に気弱な感じになっている気がした。

 

 

弁護士と医者、ヒロインの職業の違いも大きい

 

 

桑野が気弱な雰囲気になった上に、ヒロインであろう

弁護士の吉山まどかのキャラクターが、あまり良くない。

 

前回の医者は相談に行くのにちょうどいい設定だった。

働き盛りの個人事業主が、体調不良をかかえて相談に行く。

夏美先生も初回から親しくなった訳ではなく、何度も顔を合わせた後で

喧嘩をしたり、病院の外で会ったりするようになって行った。

夏美先生が桑野の隣人のみちると仲良くなるのも、自然な流れだった。

 

しかし、今回の弁護士の場合、第1回目から桑野の態度に

吉山先生が怒っていて、喧嘩をするのが早すぎると感じた。

ちゃんと人間関係を築いていない段階で、桑野にキレている。

弁護士は金銭トラブルや人間関係のトラブルを解決する職業だから、

問題の多い人間を相手にする事も多いと思う。

桑野は確かに偏屈だけど、この程度の嫌味、華麗にスルーできなくては

弁護士業はつとまらないのではないか、と感じた。

 

前作を観た視聴者としては、今作でも、桑野と夏美先生のような

丁々発止のやりとりが観れる事を、もちろん期待している。

でも、その掛け合い漫才のようなやりとりは、そこに至るまでの

きちんとしたプロセスがあって生まれるものであって、

吉山先生と桑野の間には、感情の積み重ね、プロセスがないので、

単に、吉山先生がキレやすいだけの女性に見えたのである。

 

 

全体の印象としては、漫才の相方が変わってしまったのに、

昔ウケたネタを別の相方で再現しようとして、息が合わずに

ギクシャクしてしまう感じ。

それによって、失われたものの大きさに気づいてしまうと言うか。

夏美先生もみちるちゃんも沢崎さんも、みんな綺麗だった、

華やかで良かったなぁ、と軽く喪失感を覚えるのであった。

 

 

人生100年時代、桑野はまだ折り返し地点……なのか?

 

 

前回は「おひとりさま」の生活を描いていたが、

今はおひとりさまが当たり前になり、

恋人がいない独身の男女が増えたため、結婚や恋愛が、

ある意味では嗜好品、贅沢品のようになっている。

また、前回のドラマと町の風景も変わり、

コンビニの店員は外国人と高齢者で、

DVDレンタルの店がなくなっている。

前作では、夏美先生と桑野が遭遇する場所だった

DVDレンタル店の代わりに、登場人物が集まるための

茶店という新しい場所が必要になったのも分かる。

 

 

前作の桑野はアイランドキッチンにこだわりがある男であり、

「キッチン」は結婚を象徴するイメージだったと思う。

しかし、今作では「オリンピックのコンペに落ちて、落ち込んだので、

キッチンではなく、高齢者住宅について考えるようになった」と言っており、

人生100年時代の高齢独身者」がテーマであって、

その辺の変更点が、作品全体をしんみりさせている要因とも思える。

(後、桑野は夏美先生にふられて、落ち込んでいる可能性もなくはない)

 

前作の放送は夏だったが、今作の放送は秋で

制作側も作品のテーマが変わった事を意識して、

放映時期を選んでいると思う。

 

 

人生100年と言っても、80歳、90歳過ぎても

健康で働けるのはごくごく一部。

桑野信介、53歳。まだまだ働き盛りではあるが、別にもう、

恋愛とか結婚とか、無理してしなくてもいいんじゃないのかな。

吉山先生も、喫茶店の店長も、夏美先生より素敵じゃないし。

いまさら他人と同居なんて無理だろう。

 

最後がどうなるか気になるので、このまま見続ける予定だが、

前作とは別物として、今後はゆる〜く視聴します。