アメリカン・コメディ好きの部屋

アメリカのコメディとコメディアンが好きです。時間がある時に更新します。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』観た

アカデミー賞受賞で話題の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」を観た。面白かった。毎度のネタバレ感想になりますので、ご注意を。

 

www.youtube.com

以下、簡単なあらすじ。

コインランドリー経営者のエブリンは、父親の誕生日と春節のお祝いの準備で忙しい。娘は反抗的で旦那は頼りにならずイライラを募らせている。そんな中、国税庁から呼び出されて、意地悪な監査員の鬼ババァと面談をしなければいけなくなった。

監査員と向かい合ってる最中、話に集中できず、気が遠くなったエブリン。国税庁の用務室に移動した所で、旦那がある重要な事実を告げる。「この世界とは別の世界で、君は救世主なんだ。世界を救う為に戦ってくれ」

 

これが本作の導入部分。そしてここからマルチバース(古い言い方ではパラレルワールド)に突入し、それぞれ別の世界で別の人生を送っているエブリンの能力を身につけて、世界を救う戦いに挑んでいく。最大の敵は誰なのか? エブリンは世界を救えるのか? と言う、あらすじだけでは「ちょっと何言ってるか分からない」映画である。

 

この映画を観ていて、私が思い出したコメディ映画がふたつある。ひとつめはウディ・アレンが監督した『カイロの紫のバラ』。もうひとつはレニー・ゼルウィガーが主演した『ベティ・サイズモア』。物語の最初の方で、主人公のエブリンは、コインランドリーのモニターに流れていたロマンチックな映画をうっとり眺めている。そのシーンが上記ふたつの映画を思い出させたのだ。

 

カイロの紫のバラ』は辛い現実を忘れる為、映画館に通っていた主人公の元に、映画の中からロマンチックなヒーローが現れる話。

eiga.com『ベティ・サイズモア』は昼メロの登場人物と恋に落ちる空想に浸っていた主人公が、衝撃的な事件をきっかけに心神喪失状態になり、昼メロの内容を現実だと思い込む話。

eiga.com

エブリンの場合、これらふたつの映画よりも進化して、ロマンスではなく、アメコミヒーロー物、マルチバース物の世界に入り込んでしまう訳で、そこではほぼ全ての人間が敵である。父親も敵、国税庁の職員も敵、そして娘が最強の敵。頼りない筈の旦那だけは一緒に戦ってくれるが、元々のエブリンの世界では、エブリンは旦那から離婚したいと言われた所だった。

 

この映画、現実に起こった部分を時間軸通りに並べると、こんな話になる。

優しい旦那と恋に落ちて、中国の両親から逃げるようにアメリカに渡ったエブリン。コインランドリーを経営し、可愛い一人娘にも恵まれる。しかし現在、旦那から熟年離婚を切り出され、娘にも嫌われ、税務処理の最中に限界がきた。世界の全てが敵に見えて、国税庁で監査員を殴ってしまう。

税金に関しては、旦那がとりなしてくれて、夕方まで提出期限の猶予が出来ていたが、エブリンは無視して、父親のお祝いの準備をしていた。そこに税務署の役人が現れる。ここでまた、頼りにならない筈の旦那が交渉し、税務署の鬼ババァは状況を理解して待ってくれる事になった。なぜ理解したのかは、離婚の話が出ている事を旦那が伝えたからである。「鬼の目に涙」とはこの事、実は監査員も似たような経験の持ち主だった。

「性格が強すぎるのよね、あたしたち」意外な共通点で敵と理解しあうエブリン。つねづね「こんな頼りない旦那と結婚しなきゃ良かった」と思っていたが、それは勘違いで、むしろ旦那の方が彼女を理解し支えていた。また、娘から子離れしなければいけない事を悟り「私に必要なのは戦いではなく愛する事だ」と気づいて、正気を取り戻すのだった。

 

エブリンの内面で起こっている葛藤や後悔、混乱が「ヒーローの戦うマルチバース世界」で表現されているのだ、と言う風に私は理解した。敵の名前が「ジョブ(仕事)」なのは「生活の為、子供の為、必死で働いてきた事」を示唆すると思われる。観終わって、ちょっと泣いたが、正直、映画マニアでないライトな層の人に伝わる内容なのか、不安にもなった。(余計なお世話である)

 

監督のダニエルズについては知らなかったけれど、製作のルッソ兄弟は『キャプテン・アメリカ』や『アベンジャーズ』で有名になる前に知っていた。私はルッソ兄弟が関わっていた、コメディ・ドラマの「コミ・カレ!!」が大好きで、全話をアマゾンで購入済みである。「コミ・カレ!!」にもマルチバースが出てくる回があるので、せっかくだから紹介したい。

 

シーズン3のエピソード4、「あの日 あの時 あの場所で 引っ越し祝いパーティ」と言う回(原題はRemedial Chaos Theory)。引越し祝いで宅配ピザを頼んだコミカレ(コミュニティ・カレッジ)の仲間。サイコロを振って誰がピザを受け取るか決めようとする。しかしサイコロの出た目によって、それぞれ別の次元が生まれ、どの次元でも何かしらとんでもない事が起こって、てんやわんや(死語)する、と言う話である。

 

このドラマの主役の一人にアベッドと言う映画マニアがいるのだが、ドラマの中身もマニアックで凝った作りになっている。例えば、地獄の黙示録の撮影現場を追ったドキュメンタリー『ハート・オブ・ダークネス』のパロディやマカロニウェスタンのパロディ、1話丸ごとクレイアニメの回や、レトロなコンピュータゲーム風の回など、学園ドラマの大枠の中に色々なジャンルの映像表現を詰め込んでおり、カルト的な人気を誇っている。ネトフリやアマゾンプライムなどで配信されているので、関心を持った方は是非観てみて欲しい。超オススメ。

 

ついでに、ジェイミー・リー・カーティスと言えば『ワンダとダイヤと優しい奴ら』でボディコンを着たセクシーなアメリカ人(峰不二子ポジション)を演じた事を思い出す。この映画も大好きな作品なので、興味のある方は是非。これも、アカデミーの助演男優とってますね。

eiga.com